第20回世界コンピュータ将棋選手権

コンピュータ将棋選手権決勝ラウンドを会場で見学してきた。
今回は幸運にも選手権会場内に直接入ることが出来たので、その感想。

1.会場の雰囲気

 理系空間とかアカデミックとか独特の雰囲気などと評される事が多いようだ。
確かに将棋を指してるような気には全くならないので、異空間には違いないだろうけどこの表現はどうもしっくりこない。学会だって口頭発表中は大人しく拝聴しているし、ザワザワとしていてサロン的な雰囲気ともまた違う様な気がする。色々考えた末に、あえて皆が知っている近いものを挙げると技術家庭の時間にラジオを作っていたあんな感じじゃないだろうか。
 まあ、ソフトウェア演習の時間を理系空間というならそうなのかもしれない。

2.ネット中継との差異

 盤面を見るだけならネットの方が良い。全対局表示が素晴らしい。
会場でも、部屋前方にスクリーンで四局同時表示&サイドの解説用スクリーンがあるが、部屋の後ろからだと四分割は厳しい。(目が悪いのがいかんのだろうけど)
 例えばボンクラvs大槻戦では、先手の銀が7六から上がってなんだか狙われてるなぁと思っていたら、いきなり右に動いて???となった。銀じゃなくて金なのか?そんな手あるのか?とスクリーンに寄ったらなぜか玉が六段目に(笑)。その後の勝又解説では「こんな玉上がりをやる棋士は一人しかいない」と言われていたり。対策としては、現地でもネット環境を持参して、見たい対局を手元の端末に表示したほうが良いかもしれない。
 勝星計算は公式アナウンスに関しては会場の方が情報早い。ネット中継ページは遅れて更新(手作業?)しているが、現場では素早く表が回ってくる。2chTwitterでも速報は出るが、表形式での貼り付けに難があるので、webページベースで素早く更新されるのが望ましい。人出が足りないのだろうか?

3.読み筋

 GPSTwitterで読み筋を呟いている訳だが、もちろん選手権参加者の端末には(普通)自分のコンピュータの読み筋、評価値が表示されている。それでどうなるかというと、会場では対戦相手と自分のマシンとをお互いに行ったり来たりすることになる。右往左往しつつ対戦マシン同士の読みを比べながら、一体どう指すのかを話し合うのは結構楽しい。対戦用サーバはfloodgateのように読み筋を受け付けて棋譜コメントで表示するようにしたらどうだろうか。

4.質問

 せっかくの機会なので、いくつか質問もしてきた。
 保木氏に「null move pruning」について質問した。大会2日目のネット中継で激指の鶴岡氏とパス手について何やら語っていたので、その確認。ボナンザの「null move pruning」は(ネットで調べて出てくる)普通の手法。「パスしてやったのに自分が良くなる」=「相手が悪手を指した」という考え方に基づいて悪そうな手をカットする。これに対して、激指やGPSの実現確率探索では(読みが深くなると)良さそうな手のみを生成する。この際に良さそうな手の一つとしてほどほどに良い、穏やかな手としてパス手を候補に入れる。「パス=最善手じゃないから」(後ろ向き)と、「パス=そんなに悪くない」(前向き)ではずいぶん考え方が違う気がするが。いずれにせよ将棋世界の連載で抱いた違和感は解消した。あの連載は紙面の都合もあるだろうが、色々と思う所はある。
 
 GPSの300台構成に関しては通常クラスタ+合議でどうかと聞いて回った。300台のうち1台がコケたらアウトというのは厳しいので、冗長構成にするというアイデアが出ていたのだが、それなら単に多重化するより合議にしたほうが得じゃないかと思ったので。
 通常クラスタ化で性能が頭打ちになるところまで台数を増やして、飽和したら合議にすればよい。例えば50台クラスタ×6合議とか。これならば、特別難しいシステムを考えずに構築可能だろう。保木氏は「直交する技術だから、当然組み合わせは有効」との見解。
 勝又先生にも質問できた。過去、「最新戦法の話」を読んでいて、相振りの低い矢倉がボナンザ囲いの鏡像反転じゃないかと気づき、気になっていたので。相振りの章末にあるように、結局角の居場所の問題であるとのこと。「相振りだからおk」ということになる。最近は減ったが、ボナンザ系は鏡像局面を同一視するはずで、相振り矢倉の棋譜が増えたらまた囲うようになるのか……?


以上、まとまりのない感想である。
最後に、今回見学の機会を用意して頂いた伊藤さん、ありがとうございました。