窓の外では雪がしんしんと降っていた。ひとりごちる。
「雪、積もってるな」
「そうだね」
慌てて振り向くと、いつのまにか名雪が俺の背後に立っていた。俺の顔を覗き込んでにっこりと微笑む。
「どうしたの?」
「あ、いや……」
俺は曖昧に答えると、再び窓の外に視線を移した。傍らに名雪が並ぶのを視覚によらず感じる。なんとなく緊張を覚えながら意識を外の景色に向ける。視界の中で、ピンクの傘が動いているのが見えた。ふと、あの街が――傘を差して待ちつづける少女が――脳裏に浮かぶ。
「祐一、今誰かのこと考えてたでしょ?」
再度の奇襲。俺の鼓動、速くなる。女の勘というものは何故こうも鋭いのであろうか。
「あー、いや、前に居た街ならさ。この時期でも雪じゃなくて雨だったかもなって」
「そういえばピンクの傘、だったよね」
思わず名雪の顔を見る。名雪は窓の外を見つめたまま口を動かしつづけた。
「かわいい子だったもんね。彼氏が出来ちゃってたの、残念だった?」
名雪を連れていったあの街で再開したあの日の事を思い浮かべる。控えめな、だが魅力的な笑顔。それは間違いなく隣に立っていたあの男がもたらしたものだった。
「いや、最初から俺には高嶺の花だったよ。あの笑顔は、あいつのおかげだ……」
「それなら、わたしが笑えるのは祐一のおかげだよ」
名雪はさらりと恥ずかしいことを言う。
「莫迦、恥ずかしいこと言うな」
「恥ずかしくないよ。あのときの祐一が喋ったことの方が恥ずかしいよ」
ぐあっ……
またあのときの事を……
どうしようもなく恥ずかしくなった俺は外界に目を逸らした。既にピンクの傘は窓の視界から消え去っている。ふと、手のひらに暖かいものを感じた。俺はそっと重ねられた名雪の手を握り返す。

そのまま、俺たちはしばらく外の景色を眺めつづけたのだった。

雪といいつつ霙と雨だった昨日と今日。
kanonの舞台じゃ雪だからと、ふと思い出した久弥同人*1設定。
茜と再開した祐一、あのワッフル食べたのかなー。やっぱり食べたんだろうなー、一口だけ。

*1:ifより、innocent