マックスコーヒーか、しからずんば死を

千葉独立戦争

「……TV傍受によりますと、埼玉県が義勇軍を編成、国境付近に展開しつつあります。これに対して我が国軍は主力を対自衛隊に張付けざるを得ず、突出部となっている野田市の防衛は困難と言わざるを得ません。」

会議室では大統領補佐官の報告が続いていた。明るいニュースは皆無だった。
大統領は一言も発さず、既に一般市民には手の届かなくなったコーヒーを飲んでいるだけだ。一本20000円のマックスコーヒー。茨城との国境線が閉鎖されて以来、官給用のものを除けば備蓄はとうに尽きていた。闇ルートで細々と密輸される貴重品として価格は高騰しているが、上層の権力者だけは未だ不自由せずにいる。

マックスコーヒーといえば、野田での生産を行うという話だったが――
展望の開けない会議に飽きた俺はこの場に相応しくないことを考え始める。
これまで茨城で生産されていたマックスコーヒーを、「国産」に移行する計画が何処かで立案されていたはずだった。ご丁寧にもデザインをかつてのモノに戻すというこだわりようで、もう生産を始めてもおかしくないのだが。矢張りラインがなんとかなったとしても、原材料の手当てがつかないのだろうか。

「…に対し、軍部からの提案は現在国境を閉鎖している1普連を……」
軍部の威勢だけは良い報告を聞き流しながら俺は思考を続ける。現状では戦争をして遊ぶような余裕は無い。何よりも国民の腹を満たす事が優先課題となっている。このまま手をこまねいていては本物の飢餓に見舞われかねないのに。

会議が何の成果もあげずに終了したのちも、俺は一人席についたまま思案しつづけていたのだった。

空から伝単撒かれたりとか
突出部に楔を打ち込もうとする埼玉義勇軍と、国境封鎖で大量発生した失業者を徴兵した部隊とが野田市で大攻防戦を繰り広げたりとか
漁船団も、むなしく遊ばせておくよりはと運を天に任せて一斉に封鎖突破を図る特攻出漁が叫ばれ始め、船団現存主義(フリート・ビーイング)を主張する主流派との間で論争が起きたりとか。

そんな素敵展開だったら是非千葉独立をきぼーん