sister love 2


「朋也くん、もしかしたら私一人じゃ不満なのかも……」
「そんな、でも、朋也が、まさか……」」
sister love

「ただいま〜。ん、靴が……杏も居るのか?」
「わっ、朋也くんが帰ってきたよ」
「えっ?ヤ、ヤバっ!え〜とっ、とにかく隠さなきゃ」

突然の朋也の帰宅に慌てふためく姉妹。パニックに陥った杏は反射的に手にした本を自分のバッグに突っ込んだ。その直後、部屋のドアが開く。

「よっ、二人して待ってたのか」
「えっ、あ、そ、そうよ、そう。椋一人じゃ退屈だろうから、あたしも、ホラ、椋?」
「あ……は、はいっ。その、おかえりなさい」

姉妹の不審な態度にいささかの疑念を抱きながら、朋也は応えた。

「ん、ああ。ただいま」



sister love 2



「やだ……眠れない」

杏はこの夜、何度目かの寝返りを打って時計の針を確認した。既に午前二時、草木も眠る丑三つ時になっている。にもかかわらず杏を睡魔が襲う気配は未だ無い。完全に目が冴えてしまっていた。家捜しなんてするんじゃなかったと、杏は今更ながらに悔いた。眠れない理由は自覚している。朋也の部屋で見つけたあの本がいけなかった。もちろん、朋也も健全な男子のはずで、そういう本があること位は理解しているつもりだった。だが。

「朋也、ああいうのが好きなのかな。三人でとか、姉妹同士でとか……」

ウェーブのかかったロングヘアの姉がショートカットの妹に優しくリードされているシーンを思い起こした杏が、赤面してベッドの上をのた打ち回る。何もうっかり持ち帰ってしまった本を隅まで鑑賞する事はなかったのだ。おかげで椋ともまともに顔を合わせられなかった。涼の顔を見るだけで、つい、あの本の登場人物と自分たちを重ね合わせてしまう……などとを考えていたら、またしても涼に迫られる場面を想像してしまい、枕に顔を突っ伏す杏。両手で頭を抱えながらも脳内でストーリーは進行していく。

「お姉ちゃん」

椋の囁くような声と潤んだ瞳に脳髄がしびれたような感覚を覚える杏。

「や、やっぱり、駄目よ、椋。あたしたち姉妹なんだし……」
「お姉ちゃん」

繰り返される呼びかけ。より懇願の度合いを強めているその声は、もはや拒絶の意思を示しがたく感じさせる。

「あの、でも、朋也と椋が二人ともそれでいいっていうなら、あたしも絶対嫌って訳じゃ……でも、あたしこういうのまだだから、その」
「お姉ちゃんっ」
「へ?」

いきなり肩をゆすられる感触。先ほどよりも強い調子で呼びかけられた杏が我に返って顔を上げると、そこには椋が立っていた。

「なっ、……どどど、どうしたの椋?」

よりによってイケナイ妄想を巡らせていた当の相手にいきなり話し掛けられて動揺する杏。先ほどから顔は真っ赤になりっぱなしだが、幸い部屋は暗く椋には気付かれていない。同様に椋の表情も杏には窺い知れなかった。しばしの逡巡の後、椋が口を開く。

「あ……う……お姉ちゃん、私なんだか変な気分になっちゃって……」
「それで……眠れなくて、その……お姉ちゃんと……駄目?」

妹の言葉に身体を硬直させる杏。まさか、まさか本当に――

「その、お姉ちゃんとならきっと大丈夫……」

そして続けて発せられた言葉に杏は覚悟を決めた。目を閉じて椋に頷いてみせる。鼓動が早くなっていることを今更ながらに自覚しながら、掛け布団を持ち上げて見せる。椋は促されるままベッドに入ると、ぴったりと杏に寄り添った。

「暖かい……」

椋のその言葉は、一つベッドの中に居る妹の体温を強く意識させた。自らも女であるのに、妹の温かく柔らかい感触に思わず身を固くする。いけない、あたしはお姉ちゃんなのに、と自分に言い聞かせようとする杏だったが、いかんせん実体験の不足は如何ともし難かった。口では朋也と椋をけしかけていても、自分はと言えば実践する相手も居ないのだ。『あの本みたいに、妹にリードして貰っちゃうのかな……』
流されるまま、目を閉じて待つ杏。

「……椋?」

しばらく待ち続けても何のアクションも起こさない椋に、杏が問いかけた。
返事は、返ってこない。目を開けるとそこにはすーすーと寝息を立てる椋の姿があった。。

「椋?ちょっとあんた、何でいきなり寝てるの?」

呆然としながら問いただす杏にも、椋は完全に就寝してしまったままだ。
訳がわからぬまま椋の寝顔を眺めていた杏が、唐突に正解にたどり着いた。

「ああっ!?、まさかホントに寝に来ただけなのっ!?」

つまり、直前まで弄んでいたあらぬ妄想に一人盛り上がっていた杏が早とちりしただけだったのだ。

「あたしともあろうものが、なんてアホな子……」

と、自分のマヌケぶりに呆れ返る杏に、眠ったままの椋が身を寄せた。再び硬直する杏。椋は杏のお陰で無事安らかな眠りを手に入れる事が出来た。だが――

「お姉ちゃん……」

耳元で囁く声。腕に感じる柔らかな感触。脳裏にはあの本に描かれていた姉妹達が浮かび――

「もーっ、どうしろっていうのよっ!」


夜はまだ終わらない。