栞と眼鏡とヘッドホン

「ただいま……あら、相沢君」
「よ、お邪魔してるぞ」

美坂家へ帰宅した香里をリビングで迎えたのは、祐一の声であった。
彼は香里に振り向きもせずに手をひらひらさせている。その視線の先には……栞が寝転がって本を読んでいた。

「なにやってるのよ、あんたたち……」
「なにって、見てのとおりだが」

香里は人差し指をこめかみにあてると、溜め息をついてみせる。
仮にも恋人同士、もうすこし艶のある時間の過ごし方があるだろうに……読書をしている女の顔を眺めているというのはそんなに楽しいものなのだろうか。

「あ、お姉ちゃんおかえりなさい」

その時、ようやく姉が居ることに気付いた栞が身体を起こしながら声をかけた。
両耳からヘッドホンを外す。香里には見覚えのないタイプだ。

「いつ帰ってきたの?全然気付かなかった」
「たった今よ。それより、そのヘッドホンどうしたの?」
「これ?……えへへ、祐一さんがくれたの。MP3プレーヤーなんだ」

香里は屈託の無い妹の笑顔から瞬時に将来の義弟(候補)へと視線を移した。
彼と目があう。彼女は意識的に目を細めてみせた。

「栞が、夜勉強しながら聴きたいっていうからさ」

詰問するような視線に対して、あくまで朗らかな笑顔で答える祐一。続けて栞が補足した。

「これ、眼鏡しながらでもかけられるんだよ、お姉ちゃん」

その言葉に、ああ、と納得する香里。教室で、祐一が女性と眼鏡の関係についてクラスメート達と語っていた記憶が蘇ってきたのだった。そういえば、栞が家では眼鏡をかけていることを相沢祐一が知ったのは何時だろうか。あたしと同じコンタクト使いだと言ったときの彼の表情……突然、なんとも形容しがたい感情が湧きあがると、香里は栞、そして祐一へ交互に視線を動かす。そんな彼女の様子を見て祐一が問い掛けた。

「なんだ、香里も試してみたいか?」

「あたしは遠慮しておくわ……」

妹の将来に不安を覚えながら、香里は首を横に振るのだった。

オチてない……久々だし仕方ないか。勿論この祐一も眼鏡ならなんでもいいという訳ではありません。
ありませんが、眼鏡はとてもいいものです。是非キシリア様に届けてほしいですね。