ペアカップ

「意外ね、相沢君がプレゼントなんて」
「まあ、安物だけどな」
「莫迦ね、こういうのは値段の問題じゃないのよ」

満更でも無い表情を浮かべてで誕生日のプレゼントを受け取った香里は、開けていいの?と視線で問い掛けた。頷き返す祐一を見て、包装を解く。中から出てきたのは猫柄のマグカップ。

「あら……この図柄」
「えへへー、おそろいですー」

と、突然目の前にマグカップが差し出される。顔を上げると、そこには栞の笑顔。
再び視線を落としてマグカップをまじまじと見つめる。それは丁度ひと月前、祐一から贈られた品だったはずだ。
なるほど、と得心するように頷いた。祐一と栞の顔へ交互に視線を巡らせる。祐一は少しばかり照れの入った表情で頷いて見せた。栞は笑みを更に大きなものにすると、香里が手にしているのとお揃いのマグカップを掲げてくるくる回り始める。
そんな栞に視線を向けたまま、香里が祐一に確認する。

「栞ったら、折角貰った誕生日プレゼント、後生大事に抱え込んで全然使わないからどうしたのかと思ってたんだけど……相沢君とのペアじゃないんだ?」
「いや、恥ずかしいし……」

まあ、ペアのマグカップなど”いかにも”なのは恥ずかしいのだろう。あるいは(栞の趣味が)あまりに少女趣味であることに抵抗があるのかもしれない。香里は祐一の心情を忖度する。

「も〜、祐一さんったら。こんなに可愛いのに」

そんな祐一に対して、ふくれっつらで遺憾の意を表明してみせる栞。「だからだろ」と返す祐一に思わず香里は苦笑する。そんな香里に、栞は再び満面の笑みを浮かべて見せる。

「えへへー、でも、お姉ちゃんとお揃いだね」

そして、「今日から一緒に使えるね」と続ける。ああもう。一瞬言葉に詰まった香里だが、にっこりと微笑んで立ち上がると栞に問い掛けた。

「それじゃあ、さっそく使わせて貰うとしましょうか。栞、ココアがいいんでしょ?」
「うん!」

即答する栞に、満足気に頷くと今度はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「じゃあ二人で飲もっか?」
「うんっ、うんっ!」
「俺は?」
「え?要るの?」
「だって、祐一さんは私と一緒が嫌なんですよね?」
「いや、そうじゃなくて」

そうして美坂姉妹は二人がかりで祐一を散々からかうと、各々マグカップを手にとってキッチンへと向かうのだった。

間に合わなかったけど、時計の針を巻き戻して(3/2)