涼宮ハルヒの校閲

ハルヒは調子よく紙を吐き出しつづける印刷機の前で、繰り返し『ラデツキー行進曲』をハミングしていた。ちょうど俺の恥ずかしい過去が暴露された辺りがハルヒの鼻歌に合わせてリズミカルに印刷されているのを何とか止められないかと思案していると、突然ハルヒが振り返って俺の顔を覗き込む。

「なんだよ」

「別に。キョンも隅に置けないじゃないってね」

黒髪を指で払い、ニヤニヤといやぁな笑顔を浮かべるハルヒ。おいおい、勘弁してくれ。ミヨキチとはそういう仲じゃないってのはもう解っただろう?

「キョンにはもったいないくらい素直でいい子みたいってのはね」

何やらひっかかる言い方だが、まあミヨキチが素直で綺麗で魅力的で男子に人気の美少女なのは事実だな。

「全然変じゃなさそうだし」

ああ、おまえと違ってな。というか、SOS団の連中ならともかく、そうそう変な奴なんていてたまるか。

「気に入らないなら書き直す?」

恥ずかしさを隠そうと憮然としている俺の表情を観察していたハルヒは、唐突にサラリと言ってのけた。おいおい、そうは言ってもな。時間も無いし、ネタはどうするんだよ?

俺の反論にハルヒはキラリと目を輝かせたかと思うと、

「あたしとしては、全然変じゃないミヨキチって子じゃなくて、変な女の子についての話でもいいんだけど?」

「なっ」

どうしてそれを、と言いかけた言葉を慌てて飲み込む。しまった。予想していなかった奇襲攻撃に露骨に動揺してしまう。ハルヒはメドゥーサのような笑顔を浮かべると、石化して身動きの取れなくなった俺に詰め寄った。

「どんな風に変だったのか、白状するのよ」

クソ、誰だハルヒにタレ込んだのは。俺は容疑者の顔を脳裏にリストアップした。谷口、国木田、それとも古泉の奴だろうか。と、いきなり喉元が締め上げられて思考が強制的に中断させられる。胸元に視線を向けると、ハルヒがネクタイを掴んでいた。

「ホラ、黙秘権は認めないからね。キリキリ吐きなさいっ」

俺はどう説明したものか考えながら降伏の意を示すために両手をあげるのだった。

中3の時につき合っていた変な女の正体が気になります。ミヨキチは明らかに煙幕。
でも、ミヨキチ自身は結構その気じゃないかとも思う。