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さわやかな風が夏の終りを告げ、秋の到来を感じさせるある晴れた日のこと。 グラウンドに銃声が鳴りひびき、弾かれるように駆け出した一群を俺は注視していた。正確には横一線からいち早く飛び出したハルヒを、だが。先頭走者であるハルヒは『天国と地獄』の…
「じゃあ、明日は10時にするーっ?」 「うん。それでいいと思う」 今日も今日とてSOS団のお勤めを終えて帰宅した俺が喉の渇きを癒すべくリビングに足を踏み入れると、やたらテンションの高い声と控えめな声が耳に入った。 「やあ」 俺がドアをくぐりな…
夏といえば暑いのが相場であるが、それは今日のこの時においても例外ではなく、暦のうえでは秋という事実は現実の前に全く持って無力であった。 ノックに返事が無いのを確認して文芸部室のドアを開けた俺の視界に入ったのはいつも通りに淡々と読書をしている…
「やあ」 「こんにちは」 チャイムの音に部屋を出て玄関へと向かうと、キョンくんがミヨキチをお出迎えしていた。 「ミヨキチ、おはよー」 キョンくんがもう昼だろとツッコミを入れるなか、あたしは少し困ったような笑顔であいさつを返したミヨキチの手を引…
春眠、暁を覚えず。 とかくこの季節は眠い。季節を問わず授業中に寝てばかりいるじゃないかという無粋なツッコミもあるが、今は授業中でもなければ教室に居るわけでもないのさ。それでは、ここは何処なのかというと、さて、一体何処なのだろうね? …… どうや…
「ただいま」 ハルヒが所用とやらで本日のSOS団活動を早々に切り上げた俺は、特に寄り道をしたりはせずに自宅に帰り着いた。玄関先で靴を脱ぎ、上がろうとしたところで違和感を覚える。うーん、なんだろう。 あたりを見回していつもどおりの玄関であるこ…
うららかな春。俺たちは相変わらずSOS団の活動にいそしんでいた。ようするに今日も不思議を求めて街をさすらっているということさ。午前中はツマランことに古泉と男二人で時間をつぶし、今は長門と二人で図書館だ。とは言っても、集合時間が近い。そろそ…
中編 ふぅ。俺は大げさに溜息をついて首を振った。阪中なら文芸部室もその住人にも関わりがあったばかりだからメッセンジャーとしては適任だ。問題は、妙な誤解を抱いている可能性が少なからずある阪中が、SOS団の連中に何をどう説明するのかだろうな。 …
前編 「キョン……」 ハルヒの聴いた事も無いような弱々しい声に再び呼ばれ、たっぷり十数秒硬直していた俺はようやく我に帰った。そうだ、回想シーンに突入してる場合じゃないぜ。差し出しかけたまま固まっていた手をハルヒの額にあてる。 「おまえ、熱がある…
幽霊騒ぎが無事解決し、いよいよ春休みを待つばかりとなった日のこと、今度こそ本年度の非常識イベントを全てこなしたと確信していた俺は予想外の事態に自失していた。俺の目の前で頬を高潮させ、潤んだ瞳を俺に向けるハルヒに。 「キョン……」 囁くように俺…
http://d.hatena.ne.jp/take-w1/20060511/p1 さて、俺はいいかげん何度目かカウントする気も失せるがまたまた面倒ごとに巻き込まれ、それについて一々説明する気にはなれないので詳細は別の機会にするとして懲りずに長門に何とかして貰おうという状況下に居…
「手を」 長門に言われるがままに手を差し出しながら、俺は長門による手首への噛み付き攻撃を思い出していた。暴走した長門による時間改変から身を守るために、得体の知れないナノマシンを注入するための対抗措置。あまり思い出したくはなかったが。 「あの…
ハルヒは調子よく紙を吐き出しつづける印刷機の前で、繰り返し『ラデツキー行進曲』をハミングしていた。ちょうど俺の恥ずかしい過去が暴露された辺りがハルヒの鼻歌に合わせてリズミカルに印刷されているのを何とか止められないかと思案していると、突然ハ…
「意外ね、相沢君がプレゼントなんて」 「まあ、安物だけどな」 「莫迦ね、こういうのは値段の問題じゃないのよ」 満更でも無い表情を浮かべてで誕生日のプレゼントを受け取った香里は、開けていいの?と視線で問い掛けた。頷き返す祐一を見て、包装を解く。…
「おじゃましまーす」 「……ただいま」 「おかえりなさい、お姉ちゃん。いらっしゃい、祐一さん」 夏期講習の帰り、並んで美坂家の玄関を潜った俺達を迎えたのはリビングから流れてくるクーラーの冷気と、アイスを咥えた栞だった。 「おお、随分と贅沢な夏休…
「ただいま……あら、相沢君」 「よ、お邪魔してるぞ」 美坂家へ帰宅した香里をリビングで迎えたのは、祐一の声であった。 彼は香里に振り向きもせずに手をひらひらさせている。その視線の先には……栞が寝転がって本を読んでいた。 「なにやってるのよ、あんた…
「アップルパイが出来たの」 焼きたてのアップルパイを両手に、ことみが歩み寄ってくる。 テーブルにパイを置くと「上手に焼けたの」と嬉しそうに呟いた。 「ああ、いい匂いだ」 「皆が来たら紅茶も淹れるの」 「ん、もう着いてもいいと思うんだが……」 壁の…
「いらないの?アテスウェイのケーキなんだけれど」 「……」 「栞の分、あたしが頂いちゃうわよ?」 「……」 返事が無い。相当意地を張っているということだ。仕方なくあたしは階段を降りた。 「駄目ね、相沢君」 リビングで待っていた相沢君に芝居がかった仕…
「ふぁわ〜、よく寝た……もうこんな時間か」 今日は日曜、時刻は既に午後を回ってようやく目を覚ました俺は昼飯を求めて階段を下りる。 「ん?名雪の、制服……?」 ふと、チラチラと揺れ動く赤い色が視界に入った。名雪の制服だ。なにやらしきりに姿見を覗き込…
「朋也くん、もしかしたら私一人じゃ不満なのかも……」 「そんな、でも、朋也が、まさか……」」 sister love 「ただいま〜。ん、靴が……杏も居るのか?」 「わっ、朋也くんが帰ってきたよ」 「えっ?ヤ、ヤバっ!え〜とっ、とにかく隠さなきゃ」 突然の朋也の帰…
「お姉ちゃん、やめようよ」 「何言ってんの、あんたが言い出した事でしょ」 「そ、それはそうだけど、やっぱり人の部屋を勝手に調べるのは……」 妹の制止などどこ吹く風で容赦なく物色を続ける杏。そして背後には為すすべも無く困惑するばかりの椋。二人が家…
「それで、話って何?」 放課後、椋に『大切な話がある』と呼び出された杏が問い掛けた。落ち着きなくもじもじとしていた涼は、杏に促されると顔を真っ赤にしながら告げる。 「あの、お姉ちゃん、私……で、で……みたい」 「何?よく聞こえないわよ」 「あぅ………
「ふふ、どう?」 「だ、だめお姉ちゃん……んんっ!」 ふくらはぎをそっと撫でられて、押し殺した声を上げる椋。 「駄目?何が駄目なの?大人しくあたしにされるがままなのに」 杏はひざ下までなぞった所で指を止めると、いたずらっぽい笑みを浮かべる。 「だ…
本日、某所にて行われた某会合での会話。 「お、この写真は……」 「ふふん、どうだ。」 「いいな、これ」 「だろ、特にこのアングル。ラインがくっきり出ていてさ」 「お前も好きだなー。俺は妹さんもいいと思うけどな。」 「ああ、だけどやっぱり男ならば断…
「それで、話って何?」 放課後、中庭、二人きりの男女。あたしは努めて表情を殺しながら尋ねた。 「見当はついてるんだろ?」 まさか、そんな。あたしは唇を噛んだ。本気、なのだろうか、相沢君は。 相沢君には栞が居る。それに名雪だって。彼女もまた、七…
「ん……なぁ、ことみ」 「?」 ことみが小首をかしげるようにして、微笑む。 「このlogの計算規則がいまいち掴みにくいというか……大体こんな訳わからんもの、何に使うんだ?」 「……」 しばらく何か考えてるかのように固まっていたことみだが、ポンと手を叩く…
「えへへ、私と祐一さんから」 突然そういって差し出された似顔絵(?)を、香里は口許を綻ばせながら受け取った。 勿論今日が何の日かは解っている。絵のモデルは彼女自身であり、妹が悪戦苦闘する様を目の当たりにしていたから。 それは兎も角。 「で、ど…
「…クチュンッ!」 「真琴、風邪ですか?」 「あぅーっ」 「すまん、名雪。気が向いたら明日イチゴサンデー奢ってやるからな」 掃除当番をエスケープして校門へと急いでいた俺は、門の傍らに立っている天野を見てスピードを落とした。 「相沢さん」 天野がぺ…
「美佐枝さーん、チョコくれー」 「はぁ…開口一番がそれかい」 またノックもせずに人の部屋に入って。 「俺だけじゃない。きっとこいつも欲しいって思ってるぞ、な」 「にゃぁ」 同意の鳴き声。かな。 「莫迦ねぇ。犬猫にチョコレートは御法度でしょ」 たし…
細かく刻んだチョコを湯銭にかけながら溶かして。溶かして。溶かして…… 「わっ、なんだか白っぽくなっちゃった!?」 何故か無残な有様になってしまったチョコを前に大騒ぎしていると、お姉ちゃんがキッチンに入って来る。テーブル上の惨状に一瞥をくれると…