涼宮ハルヒの抱擁 後編

中編


ふぅ。俺は大げさに溜息をついて首を振った。阪中なら文芸部室もその住人にも関わりがあったばかりだからメッセンジャーとしては適任だ。問題は、妙な誤解を抱いている可能性が少なからずある阪中が、SOS団の連中に何をどう説明するのかだろうな。

おい、ハルヒよ。グースカ眠っている場合か。おまえのおかげでおかしな誤解を招いたらどうするんだ。古泉にしたり顔をされるのも業腹だが、なにより朝比奈さんに会わせる顔がない。俺がいまいましいほどに安らかなハルヒの寝顔に向かって毒づいていると、夢の中に俺の声が届きでもしたのか、ハルヒがもぞもぞと身じろぎした。俺は慌てて口を閉ざす。黙して見守る俺の前で、ハルヒは何かを捜し求めるかのように腕を宙に伸ばすと、いつものしょうもない事を思いついた時の笑顔を思い出させる表情で再び「キョン」と俺を呼んだ。

さて、俺はハルヒの手を取るべきなのだろうかとしばらく考えていると、手を振り回していたハルヒが先ほどよりやや低い声で再び俺の名を呼ぶ。やれやれ。どうやらハルヒの夢の中でまでも腕をつかまれて後を追いかける運命にあるらしい事を悟った俺は、諦観と共に腕を上げ、宙をさまようハルヒの手をそっと握った。ハルヒは手をピクリと震わせたかと思うと、その瞬間、眠っているとは思えないような莫迦力で俺を引っ張った。

「のぁ!?」

前のめりになっていた俺はハルヒに覆い被さるように倒れこんでしまう。

「ほらぁ……キョン、何グズグズしてんのよ……」

俺に圧し掛かられているにも関わらず、ハルヒは夢の世界から帰ってこないまま俺を振り回し続けているらしい。いや、現実世界でも今まさに振り回されているけどな。だが、悠長にそんな述懐をしている場合じゃなかった。第三者が見たらら明らかに誤解されそうな姿勢を正すべく立ち上がろうとした俺を、何者かが陥れるかのように、何の前触れも無くガラリとドアが開く音が響いた。よりによってこのタイミングで――恐る恐る顔を上げた俺の目の目に映ったのは、顔を真っ赤にしている朝比奈さんと阪中、普段の無表情にプラスしてほんの少しだけ瞳の色を強くした長門、そして普段どおりの微笑みを絶やさない古泉の姿だった。


かくしてハルヒが目覚めるまでの間、不本意にも手を握り締められたままの状態で俺が女性陣に対して必死の弁明を試みるハメに陥ったのは言うまでも無いだろう。

これといったオチもないまま、際限も無く続いていくのに恐怖。完結編123とか……
今回はこれにて終了。