吉村美代子の失念
「やあ」 「こんにちは」 チャイムの音に部屋を出て玄関へと向かうと、キョンくんがミヨキチをお出迎えしていた。 「ミヨキチ、おはよー」 キョンくんがもう昼だろとツッコミを入れるなか、あたしは少し困ったような笑顔であいさつを返したミヨキチの手を引っ張る。ほら、シャミが待ってるから。 「おいおい、今日は学校のプールだろ? 時間いいのか?」 「まだだいじょうぶー」と答えるあたしにミヨキチも、 「今日は早めに来ましたから。それに着替えなくていいのでギリギリでも大丈夫です」 あれ? ミヨキチ、水着着て来たの? あたし着てないー 「昨日、電話でそう言ってたから」 「あたしもミヨキチが着て来ないって言ってたから、てへっ」 お互いに相手に合わせようとして、行き違いになっちゃったらしい。あたしは舌を出して頭をコツンと叩いた。 「それじゃあ、おまえも着替えて来るか、今のうちに」 「うん、そうする。それじゃあミヨキチはシャミと遊んでて」 ミヨキチはキョンくんをチラリと見上げると顔を赤くして俯いた。えへへ、せっかくだからちょっとゆっくり準備しよう。あたし、友達想いー。キョンくんに自分の部屋へと追い払われたあたしは袋から水着をひっぱり出すと、キョンくんの部屋の中を想像しながら服のボタンを外しはじめる。シャミー、二人を邪魔しちゃダメだよ。どうせいつものようにごろ寝してると思うけど。 「ただいまー」 プールから帰り、玄関のドアをくぐって居間に入ると、キョンくんがアイスをくわえて立っていた。 「キョンくんずるいー」 キョンくんはあたしをチラリと見ると、となりでそわそわしてるミヨキチに向かって、 「おかえり」 と言って居間から台所にUターン、2本のミルクアイスを手に戻ってきた。わぁい。 キョンくんは、「ありがとうございます」と何度も頭を下げていたミヨキチがアイスをチロチロと舐めている姿をしばらくながめていたかと思うと、アイスをガジガジとかじっているあたしの方を見て、何か言いたそうな顔をした。なに? 「ガッついても2本目はダメだぞ」 キョンくんのケチ。 「腹壊すのがオチだ。少しは落ち着いて食え。こぼすぞ」 だいじょうぶだもん。ティッシュ箱を手にしたキョンくんに答えてから、あたしは棒に残った最後のひとかけらを慎重に食べると、ミヨキチの方を見て 「ゆっくりしてたら溶けちゃうー」 ミヨキチは口元にたれたミルクをキョンくんに拭いてもらって、顔中を真っ赤にしてうつむいていた。そんな二人をニヤニヤながめていると、こわい顔をしたキョンくんに口を乱暴にぬぐわれる。 「ふにゃ、やだー」 あたしは身をよじってキョンくんの腕から抜け出すと、居間のドアに向かってかけ出した。 「シャミと遊んでるねー。食べ終わったらミヨキチも来てー」 その後、あたしたちはシャミと一緒に遊んだり、ゲームしたりいつものように過ごしていて、そろそろミヨキチが帰るころになった。もう遅いから送っていくよと立って部屋から出たキョンくんに続いて、ミヨキチが立ち上がり、あれ、ミヨキチ、ブラして―― 「わっ、だ、ダメ」 その瞬間、口をふさがれた。またまた顔を真っ赤にしてシーッと自分の口に指をあてるミヨキチにうなずくと、ふさがれた口が解放される。ミヨキチはブラジャーをつけるようになったのも結構早くて、今じゃいつもしてるのに。 「……」 え、忘れたの? あ、水着着てきたから? 「……」 えーと、ひょっとして下も? 「……」 ますます赤く、ゆでだこ状態のミヨキチは両手を頬にあててうつむいちゃった。もう、言ってくれればいいのにー。 「は、恥ずかしいから……」 と、その時、待ちきれなくなったキョンくんが戻ってきて、 「ミヨキチ、そろそろ帰らないと家の人が心配するぞ。続きはまた明日にしよう、ホラ」 問答無用でミヨキチを立たせて連れて行っちゃった。あたしもあわてて後を追いかける。あー、一緒についていった方がいいのかなー。でも、ミヨキチがノ、ノーパンだからついて行きたいなんて言えないしどうしよう。 あたしが言葉を探している間に、キョンくんとミヨキチは靴を履いて、玄関から去っていった。何度もこっちに振り返りながら、キョンくんに促されて遠ざかっていくミヨキチに 手を振る。ミヨキチ、達者でねー。 次の日、家に来たミヨキチは、あたしやキョンくんと顔を合わせられずに、ずっとシャミを抱えてにらめっこをしてた。
書こうと思っていたネタが被ってちょっと凹んだ。
でも、この展開は規定事項なので変更出来なかったんです