[ハルヒ][ss]ひまわり娘


――テレーズ人形のようにちょこんと椅子に座ったメイドさんが草原のヒマワリのような笑顔で出迎えてくれた――



「そこでくるっと回って下さい」

「こうですか?」

俺の指示に従って可愛らしくピルエットをしてみせた朝比奈さんの細い足が、ふわりと裾を広げた白いワンピースからチラっと覗いた。はっきりいってファインダーに映る朝比奈さんはたまらなく魅力的だ。その笑顔も、お召しになった衣装も。この、海の泡と綿菓子と雪を混ぜて織りなしたような布地からなる白いワンピースこそ彼女に似つかわしいのさ。似つかわしいという形容が彼女にこそ似つかわしいように。あるいは、未来人にこそ似つかわしいように。

ところで、何故俺が森林公園で朝比奈さんを被写体にビデオカメラを回しているかというと、あえて言うまでも無いことだろうが文化祭の出展物の準備ということであり、要するに朝比奈ミクルの冒険 Epsode01 がクランクインしたという訳であった。

なに? ウェイトレスは、バニーはどうしたって? あんな趣もへったくれもない記号に踊らされてはイケナイな。未来人には未来人なりの服装というものがある。ここで質問だ。キミならどちらを選ぶ? 答えは明らかなはずだろう。

因みに、衣装の手配はというと、鶴屋さんの所にネタ本を持ち込んでそれらしい服があれば貸してくれと頼んだところ、鶴屋さんは笑いながら俺に同意したかと思うと、あっさりと衣装を新調して朝比奈さんにプレゼントしてしまった。当然の事ながら俺も朝比奈さんも恐縮しまくり、感謝しまくりであったのは言うまでも無い。少し恥ずかしそうに、腕を半円状に振ってみせる朝比奈さんを視界に収めつつ、俺は心の中で祈りを捧げた。鶴屋さん、貴方に神のおめぐみを。

「あの〜、どうでしょうか。変じゃないですか」

え、ああ、はい。大変よく似合っていますよ、それはもう。問いかけられて回想モードを中断した俺の賞賛に、朝比奈さんは頬を染めて俯く。うーむ、恥じらいの表情もいいね。この甘美な一瞬を永遠に記録していたいのはやまやまだが、残念ながらまだ録画モードのスイッチは入っていない。

「本番前に台詞の確認をしましょうか」

「あ、はい」

古泉はまだ来ていないので、代わりに俺が主演男優(いまいましいことに今回も古泉だ)の台詞を読み上げることになる。というより、奴が姿を現わす前に、朝比奈さんと甘くて熱いひとときを過ごしてみたいだけなんだけどな。俺はお気に入りの箇所を朝比奈さんに指示すると、台詞を読み上げる。

「君はタイムマシンでここに来たんだね」

続いて朝比奈さんが台本に目を落としながら、

「ええ、禁則事項が発明したの」

……はい?

「えーと、もう禁則事項も。ここはわたしのお気に入りの時空座標だから。何時間いても飽きないの。ここから見えるものは、みんなみんなすてき」
「おとといは禁則事項。きのうは禁則事項、今日はあなた」

ああ、そうか。そうだよな。俺は自分の台詞も忘れて朝比奈さんを茫然と見ながら納得していた。

「……キョン君? あっ、ごめんなさい、わたし。つい……」

いえ、いいんです。俺の思慮が足りなかっただけですから。慌てる朝比奈さんを宥めるように俺は手を振る。

「いえ、ホントはこれくらい大丈夫なんですよ。お芝居ですし……禁則事項禁則事項とかでも禁則事項ですから、あ、いや」

しかし、去年は未来人であるが故の設定など皆無だったものなぁ。ハルヒの描いた、看板だけの未来人故にボロが出なかったという事か。ますます泥沼に落ち込んでいく朝比奈さんに思わず苦笑しながら、俺は肩をすくめた。

「似つかわしい」って朝比奈みくる限定で使用されているような気がするのですがどうでしょうかね。自分の乏しい読書歴では伊藤訳たんぽぽ娘で用いられる表現で未来人繋がりの使用なのかと疑ってみるテスト。と言いたいがための長い前フリ。
なお、朝比奈さんがひまわりなのは「憂鬱」からの引用。